図解:何から始めればいいのか分からない ― 中小企業のAI導入、最初の1つの選び方

「AIを使ったほうがいいのは分かっている。でも、何から始めればいいのか分からない」

これは、私がいただくご相談の中で最も多いものです。ChatGPTの話題は毎日のように流れてきますし、同業他社が使い始めたという話も聞こえてくる。けれど、自社の業務のどこに当てはめればいいのかが見えない。そういう状態で止まっている会社は本当に多いです。

これまで累計400名以上の方にAI研修をお伝えしてきました。顧問として毎月現場に入らせていただいている先もあります。その中で見えてきた「最初の1つ」の選び方をお伝えします。

「一番大変な仕事」から始めてはいけない

最初にお伝えしたいのは、やってはいけない選び方です。

多くの方が最初に考えるのは「一番時間がかかっている業務をAIに任せられないか」ということです。気持ちはよく分かります。効果が大きそうに見えますから。

しかし、これはたいてい失敗します。

時間がかかっている業務は、たいてい複雑だから時間がかかっているのです。判断が要る、例外が多い、関係者が多い。そういう業務にいきなりAIを持ち込むと、「思ったように動かない」「かえって手間が増えた」という結論になり、そこでAI導入そのものが止まってしまいます。

一度「AIは使えない」という印象が社内につくと、それを覆すのは相当に大変です。最初の1つは、効果の大きさではなく確実に成功することで選んでください。

選ぶ基準は3つ

図解:「最初の1つ」を選ぶ3つの基準。1 毎回ほぼ同じ作業(型が決まった書類・報告書)、2 間違えても直せる(下書き・たたき台・要約)、3 自分が困っている(毎回うんざりする作業)

では何を選ぶか。次の3つを満たす業務を探してください。

1. 毎回ほとんど同じことをしている

毎年似たような案内文を作る。毎月同じ形式の報告書を書く。問い合わせに対して似たような返信をしている。こういう「型が決まっている仕事」はAIが最も得意とするところです。

ある専門学校で事務局のみなさま向けに研修をさせていただいたとき、手応えが大きかったのはまさにこの部分でした。入試の案内も授業料のお知らせも、毎年似た書類を一から作り直している。そこにAIが入ると、作業の質が変わります。

毎年・毎月くり返している書類が多い職場ほど、最初の成功体験を作りやすいと言えます。

2. 間違えても取り返しがつく

AIは間違えます。これは前提として受け入れる必要があります。

だからこそ、最初に選ぶ業務は「間違いに気づける」「間違えても直せる」ものにしてください。社内向けの下書き、たたき台、要約。こういったものは、人が最後に目を通す前提で使えば安全です。

逆に、そのまま顧客に出るもの、お金の計算が絡むもの、法的な判断を含むものは最初には向きません。慣れてから、チェック体制と一緒に整えていくべき領域です。

3. 自分(または身近な人)が困っている

意外に思われるかもしれませんが、これが一番大事かもしれません。

「全社的に効果がありそうだから」という理由で選んだ業務は、たいてい続きません。誰も自分ごとになっていないからです。一方、自分が毎回うんざりしている作業は、少しでも楽になれば実感があります。実感があると続きます。続くから上達します。

社内で最初に始める人は、AIに詳しい人である必要はありません。「この作業が面倒でたまらない」と思っている人が適任です。

実際にはこんなところから始まっています

図解:最初の1つは、こんな業務から。訪問看護は記録の要約・申し送りの作成、管理栄養士は食品成分表を扱う業務、学校の事務局は案内文の作成・差込印刷

具体的にどんな業務が最初の1つになっているか、いくつかご紹介します。

訪問看護の現場では、記録の要約と申し送りの作成から始まりました。地域の訪問看護に関わるみなさまへ勉強会をさせていただいたとき、実際に画面上で要約を作ってお見せしたところ、「修正するだけならすごくラク」という声をいただきました。ゼロから書くのと、たたき台を直すのとでは、心理的な負担がまったく違います。

管理栄養士のみなさまの場合は、食品成分表を扱う業務でした。こちらは研修だけで終わらせず、食品成分表に対応した専用のツールをお作りして納品しています。ある程度使い慣れてくると、「その職場だけの道具」を用意したほうが早い段階に入ります。

学校の事務局では、案内文の作成と差込印刷。名簿から一人ひとり宛の書類を作る作業は、手順さえ分かれば大幅に短縮できます。

どれも派手ではありません。しかし、派手でない業務から始めた会社ほど、その後が続いています。

「ルールがないまま始める」のが一番危ない

最後に、順番の話をひとつ。

図解:始める前に決めておく3つのこと。1 顧客名や個人情報を入力しない、2 学習に使われない設定にする、3 使うサービスを1つに決める

最初の1つを決める前に、「どこまでAIに入れてよいか」の線引きだけは決めておいてください。

職員がそれぞれ勝手にAIを使い始めたものの、どこまで許してよいのか決まっていない。この状態の職場は少なくありません。地域福祉に取り組む団体さまからも、まさにこの点についてご相談をいただきました。

決めるべきことは、そう多くありません。

このあたりを1枚の紙にまとめておくだけで、現場は安心して使えるようになります。ルールは制限ではなく、安心して踏み出すための土台です。

まとめ

図解:遠回りに見えて、これが一番速い。1 小さく始める、2 確実に成功させる、3 少しずつ広げる

最初の1つを選ぶときは、

  1. 毎回ほとんど同じことをしている業務
  2. 間違えても取り返しがつく業務
  3. 自分が困っている業務

この3つが重なるところを探してください。そして始める前に、情報の取り扱いルールだけ先に決めておく。

大きな効果を狙って複雑な業務から入ると、たいてい止まります。小さく始めて、確実に成功させて、そこから広げる。 遠回りに見えて、これが一番速い道です。

「うちの場合はどこから始めるべきか」を一緒に考えるところから、60分の無料相談を承っています。まだ何も決まっていない段階でも構いません。